NSIL特性評価の基本を解説!規格(CISPR 16-1-4)のポイントと測定方法まで紹介
製品開発におけるEMC(電磁両立性)対策は、その製品が市場で受け入れられるための重要な要素です。特に、無線電力伝送(WPT)機器やIH調理器などの高周波を利用した機器の普及に伴い、30MHz以下の低い周波数帯における放射エミッション測定の重要性が増しています。
本記事では、30MHz以下の測定サイトの適合性を評価する「NSIL特性評価」について、その基本から国際規格とその要求事項、評価方法までを詳しく解説します。
インターテックジャパンは30MHz以下の測定サイト特性評価サービスを新たに開始しました。CISPR 11 Ed.7.0対応に必要なNSIL(Normalized Site Insertion Loss)測定を提供し、グループ2機器の放射エミッション測定サイトの適合性を確認いたします。従来のNSA測定やSVSWR測定と合わせて、包括的な測定環境の検証が可能となります。
目次
NSIL特性評価とは?EMC試験における重要性
NSIL特性評価は、放射エミッションを測定する環境が、国際的な基準を満たしているかを確認するための測定です。信頼性の高いEMC試験を実施するための土台となる、非常に重要な評価と言えます。
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NSIL(正規化サイト挿入損失)の基本的な概念
NSILは「Normalized Site Insertion Loss」の略で、日本語では「正規化サイト挿入損失」と訳されます。これは、電波暗室やオープンサイトといったEMC測定サイトの電磁波の伝搬特性を評価するための指標です。
具体的には、送信アンテナから放射された電磁波が、受信アンテナに到達するまでの損失(サイト挿入損失:SIL)を測定し、そこから送受信アンテナ自体の特性(アンテナ係数)を取り除いて正規化した値を指します。このNSILの測定値を、理想的な測定サイトにおける理論値と比較することで、測定サイトの品質を客観的に評価します。
なぜ今NSIL特性評価が重要視されるのか
近年、IH調理器や無線電力伝送(WPT)システムなど、30MHz以下の周波数帯を利用する機器が急速に普及しています。 これに伴い、この周波数帯における放射エミッション測定の必要性が高まりました。
このような背景から、国際規格であるCISPR 16-1-4が2023年に改定され、30MHz以下のEMI測定サイトの適合性評価法としてNSIL法が明確に規定されました。 この改定により、国内外の市場に製品を投入する多くのメーカーにとって、NSIL特性評価への対応が不可欠となったのです。
対象となる機器と周波数範囲
NSIL特性評価が必要となるのは、30MHz以下の放射エミッション測定(磁界測定)が要求される機器(例えばCISPR 11 グループ2に該当する機器)を測定するオープンサイトや電波暗室などの測定サイトです。
| 対象機器の例 | 概要 |
| 高周波利用機器 | IH調理器、超音波洗浄機、高周波電源装置など。 |
| 無線電力伝送(WPT)システム | スマートフォンの非接触充電器(Qiなど)や電気自動車の充電システム。 |
| 近距離無線通信 | NFCを利用した電子マネーや交通系ICカード関連機器。 |
評価の対象となる周波数範囲は、主に9kHzから30MHzです。この範囲で、測定サイトが国際規格の要求事項を満たしているかを確認します。
NSIL特性評価の関連規格 CISPR 16-1-4のポイント
NSIL特性評価を理解する上で、国際規格「CISPR 16-1-4」の知識は欠かせません。この規格は、EMC試験で使用されるアンテナや測定サイトの仕様について定めています。
2023年の改定における主な変更点
2023年4月に行われたCISPR 16-1-4の改定は、特に30MHz以下の測定サイト評価において大きな変更点がありました。最大のポイントは、この周波数帯のサイト適合性評価法として、参照サイト法(RSM)と、NSIL(正規化サイト挿入損失)法が正式に導入されたことです。
これにより、試験所はRSMまたはNSIL法のいずれかを選択してサイト評価を実施できるようになりました。この変更は、より現実的で実施しやすい評価方法を提供することを目的としています。
RSM(参照サイト法)との違いとNSIL法の位置づけ
RSM(Reference Site Method)とNSIL法は、どちらも測定サイトの特性を評価する手法ですが、そのアプローチに違いがあります。
| 評価手法 | 概要 | メリット | デメリット |
| RSM(参照サイト法) | 評価対象サイトの挿入損失(SIL)を、理想的な特性を持つ「参照サイト」のSILと比較して評価する。 | アンテナ係数のデータやSILの理論値が不要。 | 参照サイトでの測定データが必要となり、適用が難しい場合がある。 |
| NSIL(正規化サイト挿入損失)法 | 測定したSILから送受信アンテナの係数を減じ(正規化)、その値を理論値と比較して評価する。 | 理論値と比較する評価のため、参照サイトでの測定データが不要。 | 精度良いアンテナ係数のデータが必要となる。 |
規格が要求する許容偏差(±4 dB)について
CISPR 16-1-4では、NSIL特性評価の結果に対する明確な合否基準が設けられています。具体的には、測定によって得られたNSILの値と、規格で定められた理論値との差が「±4 dB」以内でなければなりません。
この許容差内に収まっている場合、その測定サイトは30MHz以下の放射エミッション測定を行う上で、国際規格に適合していると認められます。この基準を満たすことが、信頼性の高い測定データを得るための前提条件となります。
NSIL特性評価の具体的な測定手順
NSIL特性評価は、精密な測定器と正しい手順に基づいて実施する必要があります。ここでは、その大まかな流れを解説します。
準備するもの:測定器とアンテナ
NSIL測定には、専門的な測定器とアンテナが必要です。
| 必要な機材 | 役割 |
| ベクトルネットワークアナライザ(VNA) | アンテナ間の伝送特性(S21パラメータ)を精密に測定します。 |
| 送信用ループアンテナ(パッシブ型) | 電磁波を放射するためのアンテナです。増幅器などを含まないパッシブ型である必要があります。 |
| 受信用ループアンテナ(アクティブ型など) | 放射された電磁波を受信するためのアンテナです。 |
| その他 | 高品質な同軸ケーブル、インピーダンス整合用のアッテネータ、フェライトコアなど。 |
特に、送信用・受信用アンテナの磁界アンテナ係数が正確に校正されていることが、測定の信頼性を担保する上で極めて重要です。
アンテナの配置と3軸方向での測定
測定は、製品(EUT)を配置するターンテーブル上に送信用アンテナを、規定の距離(例:3mまたは10m)に受信用アンテナを設置して行います。この際、アンテナの基準高を金属床面から1.3mに設定します。
測定は近傍界で行われるため、アンテナの向きによって測定値が変化します。そのため、x軸、y軸、z軸の3つの直交する方向それぞれでアンテナを向け、伝送特性を測定する必要があります。これにより、空間全体の電磁波の伝搬特性を網羅的に評価します。
テストボリュームにおける5つの測定ポイント
評価の信頼性を高めるため、測定は1か所だけでなく、製品が置かれる空間(テストボリューム)を代表する複数のポイントで実施する必要があります。CISPR規格では、ターンテーブルの中心に加え、テストボリュームの仮想円柱の外周上にある前方、後方、左方、右方の計5か所で測定を行う必要があります。
測定データの計算と理論値との比較
各ポイント、各軸で測定したアンテナ間の伝送特性(VSITE)から、NSIL(ANi)を算出し、理論値との差分を求めます。
- VDIRECT: 測定ケーブル同士を直接接続した際の伝送特性
- VSITE: アンテナを設置した状態での伝送特性
- FaH,T / FaH,R: 送信アンテナおよび受信アンテナの磁界アンテナ係数
測定値とCISPRが示す理論値との差分をこの計算式より算出し、すべての測定ポイントおよび周波数において±4 dB以内であるかを確認して、合否を判定します。
NSIL特性評価において、インターテックジャパンは30MHz以下の測定サイト特性評価サービスを新たに開始しました。CISPR 11 Ed.7.0対応に必要なNSIL(Normalized Site Insertion Loss)測定を提供し、グループ2機器の放射エミッション測定サイトの適合性を確認いたします。
従来のNSA測定やSVSWR測定と合わせて、包括的な測定環境の検証が可能となります。
NSIL特性評価を外部委託する際のポイント
NSIL特性評価は専門性が高く、自社での実施が難しい場合も少なくありません。その際は、信頼できる外部の校正機関に委託することになります。
ここでは、委託先を選定する際のポイントを解説します。
ISO/IEC 17025認定校正事業者を選ぶ
最も重要なポイントは、委託先が「ISO/IEC 17025」の認定を受けているかどうかです。ISO/IEC 17025は、試験所および校正機関が正確で信頼性のある結果を出す能力があることを国際的に証明する規格です。
この認定を受けている機関は、技術的な能力、品質管理システム、スタッフの力量などが第三者機関によって厳しく審査されています。 認定事業者による評価結果は、国内外の規制当局や取引先に対して高い信頼性を持つことを意味します。
測定可能な周波数範囲と設備を確認する
自社の製品が必要とする周波数範囲(例:9kHz~30MHz)全域で評価が可能かを確認することが重要です。また、3m法だけでなく10m法の評価に対応しているかなど、自社のニーズに合ったサービスを提供しているかを確認しましょう。
報告書の内容と納期を確認する
最終的に受け取る報告書には、どのような情報が含まれるのかを事前に確認しておくことが大切です。測定結果のグラフやデータはもちろん、理論値との偏差、測定の不確かさ、使用した測定器の校正情報などが明確に記載されている必要があります。
また、評価にかかる期間や報告書発行までの納期も、事前に確認し、計画的に委託を進めることが求められます。
まとめ
NSIL特性評価は、30MHz以下の周波数帯におけるEMC試験の信頼性を保証するための不可欠なプロセスです。国際規格CISPR 16-1-4への適合は、製品の品質を証明し、グローバル市場での競争力を高める上で重要な要素となります。この記事で解説した基本知識や測定手順、外部委託先の選定ポイントを参考に、適切なNSIL特性評価を実施し、EMC試験を進めてください。
NSIL特性評価において、インターテックジャパンは30MHz以下の測定サイト特性評価サービスを新たに開始しました。CISPR 11 Ed.7.0対応に必要なNSIL(Normalized Site Insertion Loss)測定を提供し、グループ2機器の放射エミッション測定サイトの適合性を確認いたします。
従来のNSA測定やSVSWR測定と合わせて、包括的な測定環境の検証が可能となります。










