無線機器指令(RED)とは?要求事項からCEマーク取得までの手順をわかりやすく解説!
EU(欧州連合)市場で無線機器を販売するためには、CEマーキングの表示が不可欠です。そのCEマーキングの根拠となる法令の一つが「無線機器指令(Radio Equipment Directive、以下RED)」です。
REDは、製品の安全性や電波の効率的な利用などを確保するための必須要求事項を定めています。
本記事では、EUへ無線機器を輸出する企業の開発担当者や品質保証担当者の方に向けて、REDの概要から対象製品、具体的な要求事項、そしてCEマークを取得するまでの手順を分かりやすく解説します。2025年8月から義務化されるサイバーセキュリティ要件などの最新動向も紹介しますので、ぜひご一読ください。
目次
無線機器指令(RED)とは?
無線機器指令(RED, 2014/53/EU)は、EU域内で販売される無線機器に対して適用される法律です。
製品が市場に出る前に、健康、安全、電磁両立性(EMC)、および無線スペクトルの有効利用に関する必須要求事項を満たしていることを製造業者に義務付けています。
これらの要求を満たした製品にはCEマークが表示され、EU市場での自由な流通が認められます。
EU市場で必須のCEマーキング制度
CEマーキングは、製品がEUの基準に適合していることを示すマークです。
これは製品のパスポートのような役割を果たし、一度CEマークを取得すれば、個別の国で追加の認証手続きを経ることなく、EU加盟国およびEFTA(欧州自由貿易連合)加盟国で製品を販売できます。
REDは、無線機器がCEマークを表示するために適合しなければならない多くの指令の一つです。
EMC指令や低電圧指令との関係
REDは、それ自体で無線機器に関する包括的な要求を定めています。そのため、無線機器はREDの対象となると、EMC指令(2014/30/EU)や低電圧指令(2014/35/EU)の対象からは除外されます。
ただし、REDの必須要求事項には、これらの指令が定める安全目標やEMCに関する要求事項が内包されています。具体的には、REDの第3.1条(a)で安全性を、第3.1条(b)でEMCをカバーしています。
したがって、REDに適合するということは、実質的にこれらの指令の要求も満たすことを意味します。
| 指令 | 主な目的 | REDとの関係 |
| EMC指令 (2014/30/EU) |
機器の電磁両立性を確保する | RED対象機器には適用されないが、REDの必須要求事項としてEMC指令(2014/30/EU)を満足させる必要がある。 |
| 低電圧指令(LVD) (2024/35/EU) |
電気機器の安全性を確保する | RED対象機器には適用されないが、LV指令(2014/35/EU)を満足させる必要がある。 電圧制限は適⽤されない。 |
旧R&TTE指令からの変更点
REDは、2016年6月13日に旧R&TTE指令(1999/5/EC)に代わって施行されました。主な変更点は以下の通りです。
・適用範囲の変更:
・ 音声およびTV受信専用機器を組入
・ 運用周波数が9kHz未満で動作する無線機器を組入
・ 無線測位機器を組入
・ 通信端末機器を除外
・各事業者の義務の明確化:
製造業者だけでなく、輸入業者や流通業者の責任と義務がより明確に規定され、サプライチェーン全体でのコンプライアンスが求められるようになりました。
・共通充電器:
特定の無線機器に対して、共通の充電インターフェース(USB Type-C)を導入することが盛り込まれました。
無線機器指令(RED)の対象となる製品は?
REDが対象とする製品の範囲を正しく理解することは、コンプライアンスの第一歩です。
意図的に電波を送受信するほとんどの電気・電子製品が対象となります。
無線機器指令(RED)の対象となる無線機器の定義
REDにおける「無線機器」とは、「無線通信または無線測位(物体の位置、速度、その他の特性を決定すること)のために、意図的に電波を放射または受信する電気・電子製品」と定義されています。
これには、以下のような身近な製品が含まれます。
*携帯電話(スマートフォン)
*Wi-Fi、Bluetooth搭載機器(PC、タブレット、イヤホンなど)
*リモコン、ワイヤレスキーボード
*GPSナビゲーションシステム
*レーダー、RFIDリーダー
*放送受信機(テレビ、ラジオ)
無線機器指令(RED)の対象外となる機器の具体例
一方で、以下の機器はREDの適用範囲から除外されています。
*アマチュア無線家が使用する、市販されていない無線キット
*特定の航空用機器
*研究開発目的でのみ使用される、特注の評価用キット
*治安、国防、国家安全保障のためにのみ使用される無線機器
また、無線機能を持たない純粋な電気・電子製品(例:有線ヘッドホン、有線キーボード)や、通信を伴わないワイヤレス給電装置なども対象外です。
無線機器指令(RED)が定める必須要求事項
REDは、製品が満たすべき要求を「必須要求事項」として定めています。これらは第3条に規定されており、大きく4つのカテゴリーに分類されます。
第3.1条(a):人の健康と安全の保護
製品が使用者やその他の人々、そしてペットなどの動物の健康と安全を脅かさないことを要求しています。
これには、低電圧指令(LVD)が定める電気安全(感電や火傷のリスクからの保護)や、人体の電波ばく露(SAR値など)に関する要求が含まれます。
LVDと異なり、電圧の制限なくすべての無線機器に適用される点が特徴です。
第3.1条(b):適切なレベルの電磁両立性(EMC)
製品が、その電磁環境で許容できない性能低下を起こすことなく機能し、かつ、他の機器の動作を妨害するような電磁妨害を引き起こさないことを要求しています。
これはEMC指令が定める要求事項と同等です。
第3.2条:無線スペクトルの効果的な利用
無線スペクトル(周波数帯)は有限な資源です。この条項では、有害な干渉を避け、無線スペクトルを効率的かつ効果的に利用するように製品が設計・製造されていることを要求しています。
送信出力、周波数安定度、スプリアス発射(不要な電波)などが評価の対象となります。
第3.3条:特定の機器に適用される追加要求事項
欧州委員会が指定する特定のカテゴリーの機器には、さらに追加の要求事項が課せられます。
これには以下のようなものが含まれます。
*ネットワークへの害の防止
*個人データやプライバシーの保護
*詐欺からの保護
*緊急サービスへのアクセス
*障害を持つユーザーの利用を容易にする機能
*共通充電器との相互運用性
近年、この第3.3条に基づき、サイバーセキュリティや共通充電器に関する具体的な規則が導入されています。
【2025年8月適用】サイバーセキュリティ要件に注意
IoTの普及に伴い、サイバーセキュリティのリスクが高まっています。
これに対応するため、欧州委員会はREDの第3.3条(d), (e), (f)を有効化する委任規則を採択しました。
委任規則(EU) 2022/30の概要
この委任規則は、特定の無線機器に対してサイバーセキュリティに関する新たな必須要求事項を課すもので、2025年8月1日から強制適用されます。
これにより、対象となる製品の製造業者は、製品の設計・製造段階でサイバーセキュリティ対策を講じることが法的に義務付けられます。
対象となる機器と3つの新しい要求事項
この規則の対象となるのは、主にインターネットに接続される無線機器、玩具、育児用機器、ウェアラブル機器などです。
これらの機器は、以下の3つの要求事項を満たす必要があります。
| 条項 | 要求事項 | 概要 |
| 第3.3条(d) | ネットワーク保護 | 通信ネットワークに損害を与えたり、その機能を悪用してサービスを低下させたりしないこと。 |
| 第3.3条(e) | プライバシー保護 | ユーザーや加入者の個人データとプライバシーを保護するための安全機能を備えること。 |
| 第3.3条(f) | 不正防止 | 金銭的な不正行為のリスクを最小化するための機能をサポートすること。 |
サイバーレジリエンス法(CRA)との関係
EUでは、REDの委任規則に加えて、より広範なデジタル製品を対象とする「サイバーレジリエンス法(Cyber Resilience Act: CRA)」の導入も進んでいます。
CRAは製品のライフサイクル全体にわたるセキュリティを要求するもので、REDの要件を発展させたものと位置づけられています。将来的には、REDの要件を満たした上で、さらにCRAへの対応も必要となる見込みです。
無線機器指令(RED)適合までの具体的な手順
REDへの適合を証明し、CEマークを製品に貼付するまでには、一連のプロセスが必要です。
ここでは、その主要な5つのステップを解説します。
手順1:適用される指令と規格の確認
まず、自社の製品がREDの対象であるか、また、どの必須要求事項が適用されるかを確認します。次に、それらの要求事項への適合を示すために用いる「整合規格」を特定します。
整合規格は、必須要求事項を具体的な技術仕様に落とし込んだもので、これに適合することでREDへの適合性を推定することができます。
手順2:適合性評価モジュールの選択と実施
製造業者は、自社の状況に応じて適合性評価の方式(モジュール)を選択します。
RE指令で使用できるモジュールは以下の通りです。
*モジュールA(内部生産管理): 製造業者が自己責任で適合性を宣言する方法。整合規格をすべて適用する場合に選択できます。
*モジュールB+C(EU型式審査+内部生産管理に基づく型式への適合): 第三者認証機関であるNotified Body(NB)が設計(技術文書)を審査し、製造業者はその承認された型式に基づき生産管理を行います。整合規格を適用しない場合に必要となります。
*モジュールH(完全品質保証に基づく適合): Notified Bodyが製品の設計から製造、検査に至るまでの品質システム全体を審査・承認する方法です。
手順3:技術文書(TD)の作成
技術文書(Technical Documentation)は、製品がREDの要求事項に適合していることを証明するための技術的な根拠をまとめたファイルです。
これには、製品の設計図、部品リスト、回路図、リスクアセスメント、適用した規格のリスト、試験報告書などが含まれます。
この文書は、当局から要求があった場合に速やかに提出できるよう、製品の市場投入後10年間保管する義務があります。
手順4:EU適合宣言書(DoC)の作成と署名
EU適合宣言書(Declaration of Conformity)は、製造業者が自社の製品が適用される全てのEU指令(REDを含む)に適合していることを、自らの責任において宣言する公式な文書です。この宣言書に署名することで、法的な責任を負うことになります。
製品に簡易的な適合宣言を添付する場合、宣言書の全文が掲載されたウェブサイトのアドレスを記載する必要があります。
手順5:CEマークの貼付
上記の手順がすべて完了したら、製品本体や銘板、梱包、付属文書にCEマークを貼付します。CEマークを表示することで、その製品がEU市場で自由に流通する資格を得たことになります。
CEマークの隣にNotified Bodyの識別番号を記載する場合もありますが、これはモジュールHなど、Notified Bodyが生産管理に関与した場合に限られます。
適合性評価で重要な整合規格の役割
REDへの適合プロセスにおいて、整合規格は極めて重要な役割を果たします。
整合規格とは何か
整合規格(Harmonised Standard)とは、欧州標準化機関(CEN, CENELEC, ETSI)が欧州委員会の要請を受けて作成した規格のことです。
REDの抽象的な必須要求事項を、具体的な試験方法や技術的仕様として定義しています。整合規格のリストは、欧州委員会の公式サイトで定期的に更新・公表されます。
整合規格を利用するメリット
整合規格を適用して製品の評価を行い、適合していることを確認できれば、その製品はREDの関連する必須要求事項を満たしていると「推定」されます。
これを「適合性の推定」と呼びます。これにより、製造業者は複雑な必須要求事項への適合をより容易に、かつ確実に証明することができます。
また、自己宣言(モジュールA)で適合性評価を行うための前提条件にもなっています。
まとめ
本記事では、EUの無線機器指令(RED)について、その概要から必須要求事項、適合までの手順、そして最新のサイバーセキュリティ要件までを解説しました。
REDへの対応は複雑に思えるかもしれませんが、一つ一つの要求事項と手順を正しく理解し、計画的に進めることが成功の鍵です。
特に2025年8月1日から適用されるサイバーセキュリティ要件は、多くの企業にとって新たな課題となります。早期に情報を収集し、製品設計に織り込むことが重要です。
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