2025/07/30
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EMCオンサイト試験とは?メリット・デメリットから費用、流れまで解説!
大型の産業機械や特殊な設備が必要な製品のEMC試験でお困りではありませんか。製品を試験所まで運ぶのが困難な場合、有効な解決策となるのが「オンサイト試験」です。オンサイト試験とは、試験機関のエンジニアが測定器を持参し、お客様の工場や製品の設置場所で直接EMC試験を実施するサービスです。
この記事では、オンサイト試験の基礎知識から、メリット・デメリット、具体的な試験の流れ、費用、そして信頼できる試験機関の選び方までを網羅的に解説します。この記事を読めば、自社製品にオンサイト試験が適しているかを判断し、スムーズに試験を進めるための知識が身につきます。
目次
オンサイト試験とは?
オンサイト試験は、製品が設置されている現場、つまり「オンサイト」で実施されるEMC試験のことです。試験設備を整えた電波暗室などで行う「サイト試験」とは異なり、エンジニアが必要な機材をすべて持ち込み、顧客の工場や施設内で試験を行います。
これにより、輸送が難しい製品でもEMC指令や各種規格への適合性を評価できます。
試験所への持ち込みができない製品に対するEMC試験
オンサイト試験の最大の特徴は、製品を試験所に輸送する必要がない点です。
通常のEMC試験では、製品を専門の試験所に運び込み、電波暗室などの管理された環境で測定を行いますが、オンサイト試験ではそのプロセスが不要になります。
試験機関のエンジニアが、アンテナ、スペクトラムアナライザ、擬似電源回路網といった試験に必要な機材一式を顧客の施設へ持ち込んで試験環境を構築します。
オンサイト試験に適した製品とは
オンサイト試験は、特に以下のような特徴を持つ製品に適しています。
対象製品 | 例 | 理由 |
工作機械、大型印刷機、産業用ロボット、組立ライン | サイズが大きく、重量がある | 物理的に輸送が困難 |
クリーンルーム内で使用する装置 | 半導体製造装置 | 汚染管理の観点から、施設外への持ち出しが許可されない |
特殊な電源やガス、純水が必要な装置 | 試験所でユーティリティ(付帯設備)を再現できない | 設備が整っていない |
これらの製品は、従来のサイト試験を利用することが現実的ではないため、オンサイト試験が唯一の、あるいは最も効率的な選択肢となります。
オンサイト試験のメリット
オンサイト試験を選択することには、コスト、時間、柔軟性の面で多くのメリットがあります。
製品開発の最終段階において、これらの利点はプロジェクトの成否に大きく貢献します。
製品の輸送コストと関連リスクを削減できる
大型で重量のある製品を試験所まで輸送するには、多額の費用がかかります。
特殊な梱包や重量物輸送専門の業者を手配する必要があり、それに伴う保険料も無視できません。オンサイト試験では、これらの輸送コストが一切不要になります。
また、輸送中に発生しうる振動や衝撃による製品の損傷リスク、あるいはそれに伴うスケジュールの遅延といった不確定要素を根本から排除できる点も大きなメリットです。
試験現場での迅速な対応が可能
試験は自社の施設内で行われるため、例えばEMI試験で規格値を超えるノイズ(不適合)が発見された場合でも、その場で迅速に対応できます。
設計担当者や製造担当者がすぐに集まり、原因究明や対策を検討し、即座に修正を試みることが可能です。
試験機関によっては、経験豊富なエンジニアがその場でノイズ対策の技術的なアドバイスを行える場合もあり、開発期間の大幅な短縮につながります。
特殊な設備や環境下での試験を実現
製品の動作にクリーンルーム、純水、特殊ガス、大容量電源といった特別な設備や環境が必要な場合、それらを試験所内で再現することは極めて困難です。
オンサイト試験であれば、製品が本来稼働するべき環境で、実際の使用状況に即したEMC評価が可能になります。
これにより、試験のためだけに製品の仕様を変更したり、環境を妥協したりする必要がなくなり、より信頼性の高い試験結果を得ることができます。
オンサイト試験のデメリットと注意点
多くのメリットがある一方で、オンサイト試験には特有のデメリットや注意すべき点も存在します。
これらを事前に理解し、対策を講じることが成功の鍵となります。
周囲の環境ノイズの影響を受ける可能性
工場の内部は、他の稼働設備や無線通信など、様々なノイズ源が存在する「ノイズの多い環境」です。
これを「環境ノイズ(暗ノイズ)」と呼びます。この環境ノイズが、測定対象の製品から放出されるノイズレベルを上回ってしまうと、正確な測定が困難になります。 そのため、多くの場合、他の生産ラインが停止する夜間や休日に試験を実施する必要があり、スケジュールの調整が求められます。
環境ノイズ | 対策 |
工場内の他の設備からのノイズ | 他の設備が停止する夜間や休日に試験を実施する |
放送波や携帯電話の電波 | 外来波として区別し、それらの帯域に製品からのノイズが出ているかどうかの判断をする |
電源ラインからのノイズ | 測定器と電源の間に高性能なノイズフィルタを挿入する |
試験実施の時間帯が制限される場合がある
前述の通り、環境ノイズを避けるために、工場の稼働が停止している時間帯、すなわち夜間や休日での試験が推奨されます。
これにより、試験の立ち会いに時間外勤務が必要になったり、生産スケジュールとの調整が複雑になったりする可能性があります。
ただし、試験機関によっては、夜間・休日対応が可能であるため、事前に確認することが重要です。
放射イミュニティ試験に制約がある
イミュニティ試験(耐性試験)の一部である「放射イミュニティ試験」は、アンテナから製品に対して意図的に電波を放射し、誤動作しないかを確認する試験です。
オンサイト試験では、サイト試験のように広範囲の周波数で強力な電波を照射することができません。
代替として、トランシーバや携帯電話など、無線機を用いて限られた周波数帯での試験や他の代替手段を用いて試験を実施します。
オンサイト試験の具体的な流れ
オンサイト試験をスムーズに進めるためには、全体の流れを把握しておくことが重要です。
一般的には、問い合わせからレポートの受領まで、以下の5つのステップで進行します。
ステップ1:問い合わせと製品情報の確認
まずは、試験機関のウェブサイトなどから問い合わせを行います。
その際、製品の概要、サイズ、重量、必要なユーティリティ、適用したい規格や目的(例:CEマーキングなど)といった情報を伝える必要があります。
この情報をもとに、試験機関はオンサイト試験の可否や、大まかな試験内容を検討します。
ステップ2:試験内容の打ち合わせと見積もり
次に、試験機関の担当者と詳細な打ち合わせを行います。
製品の仕様、構成、動作モード、接続ケーブルの種類と本数などを共有し、適用規格に基づいて必要な試験項目と手順を具体的に決定します。必要に応じて現地調査を行うこともあります。
これら打ち合わせ内容に基づき、試験機関から正式な見積書が提示されます。見積もりには、試験費用だけでなく、エンジニアの出張費や交通費なども含まれます。
ステップ3:スケジュールの調整と事前準備
発注後、お客様の生産計画や開発スケジュールに合わせて具体的な試験日程を調整します。
試験を効率的に進めるため、顧客側でも事前の準備が必要です。
例えば、測定アンテナを設置するための十分なスペース(製品から3m以上の離隔距離)の確保や、安定した電源の供給、試験対象の製品を操作する担当者のアサインなどが求められます。
ステップ4:現地での試験実施と対策
試験当日、エンジニアが機材を持って現地に到着(或いは事前に現地へ送付)し、準備が整い次第、試験を開始します。
エミッション測定で不適合箇所が見つかった場合は、その場で原因調査と対策作業に入ります。
顧客の設計担当者と試験機関のエンジニアが協力し、フェライトコアの挿入やシールドの追加といった対策を施し、再度測定を行って効果を確認します。
ステップ5:試験レポートの発行
全ての試験が完了すると、試験機関は測定データや結果をまとめた正式な試験レポートを作成します。
まずドラフト版が送付され、内容に間違いがないかを確認したのち、正式版が発行されます。
このレポートは、CEマーキングにおける技術文書の一部として、また製品が規格に適合していることを立証する重要なエビデンスとして、大切に保管する必要があります。
オンサイト試験で実施される主な試験項目
オンサイト試験は、サイト試験に準じた内容で実施されます。試験は大きく「エミッション測定」と「イミュニティ試験」の2つに分けられます。
エミッション測定の種類と内容
エミッション測定は、製品が外部にどれくらいの電磁ノイズを放出しているかを測定する試験です。
このノイズが規格で定められた限度値以下であることが求められます。
試験項目 | 規格例 | 概要 |
放射エミッション測定 | CISPR11 IEC 61000-6-4 |
製品から空間に放射されるノイズをアンテナで測定します。 |
伝導エミッション測定 | CISPR11 IEC 61000-6-4 |
電源ケーブルを伝わって漏れ出すノイズを測定します。 |
電源高調波電流測定 | IEC 61000-3-2 IEC 61000-3-12 |
製品が電源系統に与える高調波の影響を測定します。 |
イミュニティ試験の種類と内容
イミュニティ試験は、外部からのノイズ(妨害波)に対して、製品がどれだけ耐性があるかを確認する試験です。
疑似的なノイズを製品に印加し、性能の低下や誤動作が起きないかを評価します。
試験項目 | 規格例 | 概要 |
静電気放電試験 | IEC 61000-4-2 | 操作者が触れる可能性のある箇所に静電気を放電し、耐性を確認します。 |
ファストトランジェント/バースト試験 | IEC 61000-4-4 | 電源ラインなどにスイッチングノイズのような高速な過渡ノイズを印加します。 |
雷サージ試験 | IEC 61000-4-5 | 電源ラインなどに雷による誘導サージを模擬したノイズを印加します。 |
伝導イミュニティ試験 | IEC 61000-4-6 | 電源ケーブルや信号線に無線周波数帯のノイズを印加します。 |
電源周波数磁界試験 | IEC 61000-4-8 | 商用電源から発生する磁界ノイズへの耐性を確認します。 |
電圧ディップ・瞬時停電試験 | IEC 61000-4-11 IEC 61000-4-34 |
電源の電圧変動や瞬間的な停電に対する耐性を確認します。 |
オンサイト試験の費用について
オンサイト試験の費用は、製品の仕様や試験内容によって大きく変動するため、一概に示すことは困難ですが、下記の内訳/変動要因によって決まります。
オンサイト試験の見積もりは、主に以下の要素で構成されます。
- ・基本料金: 試験日数に応じて変動します。(エンジニア派遣費用込み)
- ・出張・交通費: 試験場所までの往復交通費や宿泊が必要な場合の宿泊費です。
- ・機材輸送費: 試験機材を現地まで運搬するための費用です。
- ・試験レポート発行料金:試験レポートの作成/発行費用です。
費用が変動する主な要因には、「動作モード数、連続動作可能時間」「製品の複雑さ(I/Oポート数、ケーブル長など)」「適用規格の種類と数」「試験日数」「試験場所の所在地」などが挙げられます。
信頼できるオンサイト試験機関の選び方
オンサイト試験の成否は、パートナーとなる試験機関の技術力や対応力に大きく左右されます。
以下の3つのポイントを参考に、信頼できる試験機関を選びましょう。
対応可能な規格と実績を確認する
まず、自社製品に必要な規格(例: CISPR, EN, FCC, KC Sなど)の試験に対応しているかを確認します。
加えて、自社の製品分野(例: 産業機械、医療機器など)におけるオンサイト試験の実績が豊富かどうかも重要な判断材料です。 試験機関のウェブサイトで公開されている実績やケーススタディを確認し、経験の深さを見極めましょう。
複数の試験機材とチームを保有しているか
オンサイト試験は、顧客のスケジュールに合わせて柔軟に対応する必要があります。
急な日程変更や、複数の案件が同時進行する状況にも対応できるよう、複数の測定システム(試験機材セット)と、試験を担当するエンジニアチームを保有している試験機関は信頼性が高いと言えます。
これにより、機材の故障やスケジュールの重複といった不測の事態にもスムーズに対応できる体制が期待できます。
不適合時のノイズ対策サポート体制
オンサイト試験の大きな利点の一つは、不適合時にその場で対策を施せることです。
しかし、そのためには試験機関側に高度なノイズ対策技術が求められます。
試験を担当するエンジニアが不適合時に具体的な対策案の提示ができるかなど、技術的なサポート体制の充実度を確認することが重要です。
試験結果の信頼性を高めるためのテストプランサポート
オンサイト試験のコストを抑えるためには試験期間の短縮が求められます。
しかしながら、この部分に主を置いてしまうと簡略化した試験になりがちであり、結果として“適合”に対する不確実性が大きくなります。
このリスクを下げるためにはその要因をできるだけ排除したテストプランを用意する必要があり、そのためには試験機関と事前打ち合わせをしっかり行うことが大切です。
まとめ
本記事では、試験所への持ち込みが困難な大型製品などに有効なオンサイト試験について、その概要からメリット・デメリット、具体的な流れ、費用、そして信頼できるパートナーの選び方までを詳しく解説しました。
オンサイト試験を成功させるためには、その特性を正しく理解し、信頼できる試験機関と緊密に連携することが不可欠です。この記事で得た知識を活用し、製品のEMC試験と認証取得を円滑に進めてください。
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