2025/09/08
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IEC 62443とは?産業用サイバーセキュリティ規格の概要
製造業やエネルギー、インフラといった産業分野において、デジタル化は急速に進んでいます。
しかし、ネットワークに接続された産業用制御システム(ICS)は、サイバー攻撃のリスクに晒されており、その被害は単なる情報漏洩にとどまらず、生産停止や人命に
関わる重大な事故にもつながりかねません。
こうしたリスクに対抗するための国際的な指針となるのが、IEC 62443規格です。
本記事では、この規格の全体像から、なぜ準拠が重要なのか、そしてインターテックジャパンが提供する支援サービスについて解説します。
目次
1. IEC 62443とは?産業用サイバーセキュリティ規格の全体像
産業界のデジタル化が急速に進む中、製造業やエネルギー、インフラなどの産業用制御システム(ICS:Industrial Control Systems)に対するサイバー攻撃が深刻な脅威となっています。
このような背景から生まれたのが、IEC 62443という産業用サイバーセキュリティの国際規格です。
1.1. IEC 62443規格の目的
IEC 62443は、ISA(International Society of Automation:国際自動制御学会)とIEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)によって策定された、産業オートメーション・制御システム(IACS:Industrial Automation and Control Systems)のセキュリティを確保するための包括的な国際規格です。
この規格の主な目的は、産業用制御システムにおけるサイバーセキュリティリスクの軽減と、システムの安全性・
可用性の確保にあります。
1.2.「多層防御」と「ゾーン&コンジット」の概念
IEC 62443では、効果的なセキュリティ対策を実現するために「多層防御(Defense in Depth)」の考え方を採用して
います。
これは、単一の防御策に依存するのではなく、複数のセキュリティ層を組み合わせることで、攻撃者がシステムに侵入した場合でも被害を最小限に抑える手法です。
また、「ゾーン&コンジット(Zone and Conduit)」モデルを導入し、システムを複数のセキュリティゾーンに分割し、それぞれのゾーン間の通信経路(コンジット)を適切に管理することで、セキュリティリスクを体系的に制御します。
2. IEC 62443規格の主要な構成要素と役割
IEC 62443は、産業用制御システムに関わる様々な立場の組織や個人のニーズに対応するため、4つの主要なパート
(セグメント)で構成されています。
2.1. 4つの主要パート(セグメント)
ここでは、各パートごとの概要をお伝えします。
2.1.1. IEC 62443-1:概要
規格全体の概念と基本原理を定義する部分です。用語の定義、モデル、概念などの基礎的な内容が含まれています。
2.1.2. IEC 62443-2:ポリシー、手順
資産所有者(Asset Owner)向けの要求事項を規定しています。サイバーセキュリティマネジメントシステム(CSMS:Cyber Security Management System)の確立、セキュリティポリシーの策定、リスクアセスメントの実施方法などが
定められています。
2.1.3. IEC 62443-3:システム
システムインテグレーター(System Integrator)向けの要求事項を定義しています。システム設計時のセキュリティ
要求事項、セキュリティライフサイクル、システム認証に関する内容が含まれています。
2.1.4. IEC 62443-4:コンポーネント
製品ベンダー(Product Vendor)向けの要求事項を規定しています。
個別のコンポーネントやデバイスに対するセキュリティ要求事項、開発プロセス、製品認証に関する内容が定められています。
2.2. 役割に応じた適用
IEC 62443では、産業用制御システムに関わる各ステークホルダー(利害関係者)の役割に応じて、適用すべき要求事項が明確に定義されています。
- ・資産所有者:システムを所有・運用する組織(製造業者、電力会社など)
- ・システムインテグレーター:システムの設計・構築・統合を行う事業者
- ・製品ベンダー:コンポーネントや製品の開発・製造を行う事業者
それぞれの立場に求められる責任範囲と実施すべき対策が体系的に整理されており、関係者全体でセキュリティレベルの向上を図ることができます。
2.3. セキュリティレベル(SL)について
IEC 62443では、システムのセキュリティ要求事項を4段階のセキュリティレベル(Security Level:SL)で
定義しています。
- ・ SL1:偶発的または意図しない侵害からの保護
- ・ SL2:意図的な侵害(基本的なスキルと少ないリソースを持つ攻撃者)からの保護
- ・ SL3:意図的な侵害(洗練されたスキルとリソースを持つ攻撃者)からの保護
- ・ SL4:意図的な侵害(高度なスキルと豊富なリソースを持つ攻撃者)からの保護
このレベル分けにより、システムが直面するリスクに応じて適切なセキュリティ対策を選択・実装することが可能に
なります。
3. なぜIEC 62443への準拠が必要なのか
現代の産業環境において、IEC 62443への準拠は単なる選択肢ではなく、事業継続と競争力維持のための必須要件と
なりつつあります。
3.1. リスク軽減と安全性の確保
産業用制御システムに対するサイバー攻撃は、単なる情報漏洩にとどまらず、生産停止、設備損傷、さらには人命に
関わる重大事故を引き起こす可能性があります。
IEC 62443への準拠により、これらのリスクを体系的に評価し、適切な対策を講じることで、システムの安全性と可用性を確保できます。
3.2. 法規制・規制要件への対応
世界各国では、重要インフラの保護を目的としたサイバーセキュリティ関連法規制が強化されています。
例えば、欧州のNIS指令(Network and Information Security Directive)や米国の重要インフラ保護政策などがあります。
IEC 62443への準拠は、これらの規制要件を満たすための重要な基盤となります。
3.3. サプライチェーンセキュリティの強化
グローバルなサプライチェーンにおいて、調達先の製品やシステムのセキュリティ信頼性は重要な選定基準となって
います。
IEC 62443認証を取得した製品・システムは、国際的に認められたセキュリティ基準を満たしていることが客観的に
証明されるため、サプライチェーン全体のセキュリティレベル向上に寄与します。
3.4. 競争力の向上と市場からの信頼獲得
IEC 62443への準拠は、組織のセキュリティに対する取り組みを市場にアピールする重要な差別化要素です。
特に海外展開を目指す企業にとっては、国際的に通用するセキュリティ証明として、顧客からの信頼獲得と
新規市場開拓の強力な武器となります。
3.5. 機能安全との関係
産業用制御システムにおいて、機能安全(Functional Safety)の達成には、システムが意図した通りに動作することが
前提となります。サイバーセキュリティは、この前提を脅かす外部要因からシステムを保護する基盤的な役割を果たします。
IEC 62443は、IEC 61508などの機能安全規格と密接に連携し、包括的な安全性確保を実現します。
4. インターテックジャパンのIEC 62443評価・認証サービス
インターテックジャパンでは、豊富な経験と専門知識を活かし、IEC 62443に関する包括的な評価・認証サービスを
提供しています。サービスの内容について詳しくお伝えします。
4.1. 提供サービス
インターテックジャパンの電気・電子部門では、具体的に以下のサービスを通じてお客様のIEC 62443準拠をサポートします。
4.1.1. 機能安全サービスとの連携
これまでの豊富な経験を活かし、IEC 61508、IEC 61511、IEC 62061、ISO 13849などの機能安全規格とIEC 62443の要求事項を統合的にサポートします。
これにより、安全性とセキュリティを両立したシステム構築が可能になります。
4.1.2. グローバルネットワークの活用
インターテックグループのグローバルネットワークを駆使し、世界各国の規制要件や市場動向に対応した認証サービスを提供します。
ローカルテストおよびローカル認証を目指した業務展開により、効率的かつスピーディーな認証取得を実現します。
4.1.3. 経験豊富なエキスパートによるサポート
各種評価試験業務に適した試験所と経験豊富なエキスパートにより、技術的な課題から認証手続きまで、お客様の
ニーズに合わせたきめ細やかなサポートを提供します。
【インターテックジャパンに依頼するメリット】
- ・ワンストップソリューション
- 評価から認証まで一貫したサービス提供により、お客様の負担を軽減します
- ・国際的な信頼性
- グローバルに認められた認証機関として、世界市場で通用する認証を提供します。
- ・専門的な知識とノウハウ
- 産業用制御システムと機能安全の両分野における深い専門知識により、
- 効果的なセキュリティ対策を提案します。
- ・迅速な市場投入
- 豊富な経験に基づく効率的な評価プロセスにより、製品・システムの迅速な市場投入を支援します。
5. IEC 62443で産業システムの未来を守る
産業界のデジタル変革が加速する中、IEC 62443は産業用制御システムのサイバーセキュリティを確保するための
不可欠な国際規格として位置づけられています。
IEC 62443への準拠は、以下の価値を企業にもたらします。
- ・包括的なセキュリティ対策
- 多層防御とゾーン&コンジットモデルによる体系的なリスク管理
- ・国際的な信頼性
- グローバル市場における競争力の向上
- ・法規制対応
- 各国のサイバーセキュリティ関連法規制への適切な対応
- ・事業継続性
- サイバー攻撃による事業中断リスクの最小化
- ・機能安全との連携
- 安全性とセキュリティを両立した統合的なアプローチ
デジタル化が不可逆的に進む産業界において、IEC 62443への準拠は競争優位性を確保し、持続可能な事業成長を実現するための戦略的投資です。早期の取り組み開始により、市場での先行者利益を獲得することができます。
お客様の産業用制御システムのセキュリティ強化をインターテックジャパンがサポートいたします。IEC 62443に関するご相談、評価・認証サービスについてのお問い合わせは、以下よりお気軽にご連絡ください。専門のエキスパートが、お客様のニーズに合わせた最適なソリューションをご提案いたします。